ジェラートひとさじの物語 — Space Gelato HOPE

Gelato Notebook

GELATO

、ひとさじの物語

歴史と科学、職人の手仕事をめぐるノート

ルネサンスの厨房から生まれたひとさじは、いまも種子島の朝と共にあります。歴史も科学も、少しの物理学も、全部が溶け込んだお菓子の話を、ゆっくりお伝えしますね。

はじまりは、ルネサンスの晩餐会から

雪や氷に果物の汁やはちみつを混ぜた冷たいお菓子は、紀元前のエジプトやペルシャの記録にも残っているそうです。でも、わたしたちがよく知っている、なめらかでクリーミーなジェラートの姿になったのは、16世紀のフィレンツェでのことでした。

ブオンタレンティのひとさじ

建築家であり彫刻家でもあった多才な人物、ベルナルド・ブオンタレンティ。メディチ家の依頼を受けたある晩餐会で、牛乳と卵、砂糖と香料を使った、それまでにない冷たくクリーミーなデザートをふるまったと伝えられています。氷と塩を木桶に詰めて温度を下げる、独自の冷却方法も考え出したのだとか。フィレンツェのジェラテリアには、今もその名を冠したフレーバーが残っています。

広まってゆく物語

この驚きのデザートは、カテリーナ・デ・メディチがフランス王家に嫁いだときにパリへと渡り、宮廷を通じてヨーロッパの貴族たちへ広まっていきました。1686年には、パリに開いたカフェ・プロコップが、より多くの人にジェラートを届けるようになります。

街へ、世界へ

19世紀には、人工の氷とともにイタリアの職人たちが各地へ移り住み、ジェラートは屋台の甘いお菓子として街角に根づいていきました。1944年、ボローニャでブルート・カルピジャーニが世界初の自動製造機を生み出し、量産の時代が始まります。

古代
氷に果汁やはちみつを混ぜた、冷たいお菓子が生まれる
16世紀 — フィレンツェ
ブオンタレンティが乳製品と卵を使ったデザートを考案
1533年
カテリーナ・デ・メディチとともに、フランス宮廷へ渡る
1686年
パリにカフェ・プロコップが開店し、街の人々へ広がる
19世紀
移民の職人たちの手で、世界各地の街角へ
1944年
カルピジャーニが世界初の自動製造機を発明

イタリアでは夕暮れどき、家族や友人と歩きながらジェラートを楽しむ「ラ・パッセジャータ」という習慣があります。特別なごちそうというより、誰にでも開かれた、日常のたのしみなんですね。種子島でも、そんなふうに肩の力を抜いて楽しんでもらえたらうれしいです。


アイスクリームとの、ちいさな違い

見た目はよく似ているジェラートとアイスクリーム。でも実は、材料の配合から食感、味わいまで、いくつもの違いがあるんですよ。

乳脂肪分

アイスクリームは生クリームを主に使い、乳脂肪分はおよそ10〜20%。一方ジェラートは牛乳を主体にしているので、4〜9%ほどにとどまります。脂肪分が少ないぶん舌の上をおおう膜が薄く、ピスタチオやフルーツ本来の味がすっと感じられるのだそうです。

空気の含み方

アイスクリームは勢いよく攪拌するため、体積の50〜100%ほどの空気を含みます。ジェラートはゆっくりと低速で混ぜるので、空気は15〜30%ほど。この差が、ジェラートのずっしりとなめらかな口当たりを生んでいます。

提供する温度

アイスクリームはマイナス20℃前後、ジェラートはマイナス12〜8℃くらいで提供されます。少し高めの温度のほうが舌の感覚が鈍りにくく、香りも鼻へ抜けやすいので、フレーバー本来の味をより感じやすいんですね。

砂糖のもうひとつの役割

ジェラートの糖分は、甘みをつけるだけでなく、水が凍る温度を下げる役目も持っています。この働きのおかげで、マイナス10℃前後でもガチガチに凍らず、やわらかな食感が保たれるのです。

項目アイスクリームジェラート
乳脂肪分10〜20%4〜9%
空気の含有量50〜100%15〜30%
提供温度-20〜-18℃-12〜-8℃
攪拌の速さ速いゆっくり
主な乳材料生クリーム牛乳(全乳)

つくり方の、5つの工程

ジェラートづくりは、職人の手仕事と食品科学がていねいに重なり合う作業です。5つの工程を、順番に見ていきますね。

01

配合を考える

水分、乳固形分、脂肪、糖分のバランスを計算するところから始まります。糖は甘みだけでなく、氷の結晶が大きく育つのを抑える役目も担っていて、この配合が仕上がりの食感と風味を大きく左右します。

02

加熱して殺菌する

混ぜ合わせたミックスを65〜85℃まで温めたあと、4℃まで冷やします。この熱の力で余分な菌を防ぐと同時に、粉末の材料をしっかり溶かし込み、あとの工程で水分を抱え込みやすくします。

03

均質化する

高い圧力や速い攪拌で、脂肪の粒をとても細かくします。これにより水と脂がなじみやすくなり、舌の上でのなめらかさがぐっと増します。

04

休ませる(熟成)

4℃のまま4〜24時間ほど、ミックスを静かに休ませます。このあいだに安定剤が水分をゆっくり吸い込み、あとで空気を含みやすい状態に整っていきます。

05

攪拌しながら凍らせる

バッチフリーザーという機械で、混ぜながら少しずつ凍らせていきます。壁にできる細かい氷を絶えず削り取ることで、大きな氷の粒ができるのを防ぎ、あのなめらかな口どけが生まれるのです。

1944年、ボローニャのブルート・カルピジャーニが世界初の自動製造機を発明するまで、これはすべて手作業でした。今では機械の力を借りながらも、配合を考え、味を確かめる部分には、職人の経験と勘がいまも生きています。

イタリアを巡る、フレーバーの旅

ジェラートの魅力は、その土地ならではの農産物と歴史が、味わいにぎゅっと詰まっているところにもあります。いくつかの街をのぞいてみましょう。

シチリア島

レモンやオレンジのソルベット、ブロンテ産のピスタチオなど、太陽をたっぷり浴びた果物とナッツが主役です。朝食にジェラートをブリオッシュにはさんで食べる習慣もあるのだとか。

ピスタッキオリモーネ

ピエモンテ州

ナッツの産地として知られ、IGP認定のヘーゼルナッツを使ったジェラートが根強い人気です。チョコレートと合わせた「ジャンドゥーヤ」も、この土地の誇りです。

ノッチョーラジャンドゥーヤ

トスカーナ州(フィレンツェ)

ジェラート発祥の地。ブオンタレンティにちなんだカスタード味「クレマ」が代表的で、伝統のビスケット「カントゥッチ」を混ぜ込んだものも見かけます。

クレマブオンタレンティ

ヴェネト州(ヴェネツィア)

かつて香辛料貿易の拠点だったこの街では、スパイスやリキュールを使った洗練された味わいが好まれます。運河の景色に合わせた、彩り豊かな盛りつけも印象的です。

ブッソライパネットーネ

これからのジェラートのために

おいしさを追求するだけでなく、これからの環境や暮らし方に目を向ける動きも広がっています。

味の広がり

サフランやローズマリー、ゴルゴンゾーラやバルサミコ酢を使った、料理のようなセイボリー(塩味)ジェラートも登場しています。甘さだけじゃない、大人のための一皿ですね。

からだにやさしく

精製された砂糖を使わず、デーツやアガベシロップで甘みをつけたり、オーツミルクやアーモンドミルクで作る乳製品を使わないジェラートも増えています。選べる余地が広がってきているのは、うれしいことです。

ジェラートづくりで生まれる温室効果ガスの多くは、乳製品の生産段階から生まれると言われています
牛の飼料を工夫して、メタンの排出を抑える研究が進められています
土に炭素をためやすい農法(再生型農業)を選ぶ生産者から、原料を仕入れる動きも広がっています
スプーンやカップも、コーンスターチや竹などの生分解素材へと少しずつ切り替わっています

テクノロジーの力を借りて、それぞれの土地に合った味を考えることも、これからのジェラートづくりのひとつのかたちなのかもしれません。大切なのは、こだわりと丁寧さを忘れないことなのだと思います。

ルネサンスの晩餐会から始まったひとさじは、時代を超えて、今も種子島の風の中で作られています。 歴史も科学も職人の手も、そしてこれからの環境への思いも。すべてが溶け込んだ、小さな宇宙のようなお菓子です。